席に戻ると、机には封筒が置かれていた。

この部屋では、上司から、唯一「さん」づけで呼ばれる無表情な中年女性が置いていったのだろう。

毎月二十五日の恒例行事に、いつからため息をつくようになったのだろうか。

封筒を開けて中を見る。見慣れたレンジの数字が、同じ場所に並んでいる。

スマートホンは「セキュリティ」のため開くことができないので、社屋を出るまで、本当にこの金額が振り込まれたのかを確認することはできない。

先程、「見慣れた」といったが、見慣れたのは金額ではなく残業時間の方である。

十七時三十分以降の、どの仕事にお金が出て、どの仕事にお金が出ていないのか、「残業申告用紙」を片手に怒鳴られた当時はそういう事も考えた。

しかし今となってはそういう気力もなくなっていた。

実際働いた時間を覚えていので、時給に換算することはできなかったが、学生時代にコンビニエンスストアのアルバイトで稼ぎ出した最高額を、いつもやや下回っている。

憎悪がないわけではない。しかしそれよりも虚無感のほうが強かった。

周りのみんなは、この恒例行事を終えたようで、封筒をしまっていた。

無意識に、机にこの封筒を置いたであろう無表情な中年女性の座席を見た。そこに彼女の姿はなかった。

少し、視線を変えたあと、呟いた。「もう、六時か」

七月なので外はまだ明るかった。

自動ドアの開く音が聞こえた。入ってきた人物に嫌悪感を抱いた。

「緊急事態だ。いますぐ来てくれ」

一瞬、最悪だとおもったが、すぐに考えを改めた。

あと三十分でこの部屋の冷房は切れるのだ。

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